『戦没者慰霊活動』千鳥が淵戦没者墓苑 遺骨引渡式

庵主がライフワークとして年に何度か参加している、硫黄島戦没者遺骨収集事業の本年度の遺骨引渡式が、本年2月2日、東京都千代田区の千鳥が淵戦没者墓苑にて実施された。

残念ながら庵主は参加できなかったが、本事業は硫黄島戦没者に関しては、年に何度か行われる硫黄島における遺骨収集活動において収容された一年度分のご遺骨を、その年度最終回の収容派遣団が全柱東京に捧持の上帰還し、現在の事業管掌省庁である厚生労働省の職員に引き渡すというものである。庵主が体験した平成23年度の状況を思い返しながら、引渡式までの様子を簡単に述べる。

出征以来未だ祖国の土を踏めず、大陸や東南アジア、そして国内の沖縄や硫黄島の土に眠っておられる英霊のうち、内地である硫黄島においては遺骨収容活動は国家間の問題も無く、比較的容易に活動が許されるが、民間人の立ち入り禁止という島ゆえなかなかその実情が報道されないことは各位ご存知であろう。そしてその本州から1,250km離れた南海の孤島からは、現時点ではやっと1万柱を超えたばかりで半数以上の英霊のご遺骨が未帰還のままである。

年度によって収容活動の回数は違うが、数年前の多いときには年間10数度という回数が実施されたが、本年度は4回であった。そして最終回を除く3回で、計13柱のご遺骨を収容している。今回の成果と合わせて、総計17柱が当日引渡された。

収容団は毎回在島最終日の前日、激戦であった天山の地の慰霊碑に帰島報告をする。そして翌日航空自衛隊の輸送機に乗って帰還するわけだが、最終回の帰還の折には少し様子が違う。

在島支援の厚労省職員たちが用意した、白布に包まれたご遺骨の入った箱を捧持し、滑走路を団員一列になり搭乗する輸送機に向かう。その際、在島の海上自衛隊・航空自衛隊の両指令含め、業務に支障の無い隊員たちが整列。「海行かば」の演奏の中敬礼を受け、並んだ儀仗隊員の「捧げ筒」に送られ搭乗し、帽振れで見送られる中、一路埼玉県の入間基地に向かう。約二時間半、箱を抱える団員の想いは、戦後生まれの者でも一入だ。

入間基地に到着。輸送機の後方ハッチから整列し降機する。足が地面に着いた途端と言ってもいいほどのタイミングで、今度は入間基地の儀仗隊員が再び捧げ筒で敬礼をする。周囲の指令以下、他の隊員は全て正装、挙手の礼である。鳥肌が立つ。

その前を整列したまま更新し、ご遺骨ともども営門までのバスに乗り込む。

バスが発進する。航空自衛隊の大きな基地である入間基地は、バスでも営門まで5分程度はかかる。諸施設や隊員宿舎などの区画に至るまで、営門までの左側には延々正装した自衛官が隙間を空けず、等間隔で不動の姿勢で並んでいる。進むバスが近づくと、彼らは順々に挙手の敬礼と頭中(かしらなか)をし、自身の前をバスが通り過ぎるまで手を下ろさない。男子自衛官も女性自衛官も、職種や階級に関係なく全員が波打つように敬礼を捧げる。これは見事な光景で、自身たちの自衛官という職種の大先輩に対する敬意が明らかに感じられる。もしくは、わが祖国日本の将来の我々の為、志半ばで命を失った先達に対する敬礼でもあろう。在籍数千名といわれる日本最大級の基地での帰還のお迎えは壮観であり、ぜひともマスコミには報道して欲しい。

基地を出るとバスは一路都内のホテルに。そこでも整列降車。整列入館。そして翌日までの一夜の安置室にて、収容団団長に一旦ご遺骨を預ける。

翌朝再び一人ひとりがご遺骨をお預かりし捧持。近くの千鳥が淵戦没者墓苑に向かう。標題の「遺骨引渡式」に向かうのである。多数の厚労省職員や遺族会、そして他の戦地での遺骨収容を行っている方々立会いの下、整列した厚労省職員に順次ご遺骨を預ける。厳かなこの行事を持って年度最終回の遺骨収集事業は終わる。

上記がかいつまんでざっとした流れであるが、これについてはこれ以上の私見や感想は述べられない。人それぞれ考えも違い、感じ方も違い、何より感慨の程度も違う。米軍上陸直前に強制疎開を命じられた旧島民の中にも、軍属として残り、現地の土となった方々も居られるであろう。そんな方々のご遺骨が、住み慣れた、そして最後を迎えられたその地ではなく、東京において合葬されるのを悲しむ声も聞いた。難しい問題である。

ただ、しかし、日々仕事や生活に追われ、何気なく生きている大多数の国民。そんな国民全てに、このような現実や活動、そしてシーンがあるということも公開し、報道すべきであろう。制服を着用し、早くから一列に並び、そして英霊に対し直立不動で敬礼を捧げる。自衛官ではなくとも一般人全ての国民が、行動は伴わなくてもそういった慰霊の気持ちを持つことは肝要であると考える。そういう精神レベルの醸成にはマスコミの力は巨大なはずである。

最後に、本年度、初めて引渡式に参加した知己同士各位は、異口同音に感動、今後の人生において慰霊の念を惜しまないことを伝えてくれた。

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