■贋作・見分け方■『偽物の端渓』燃える硯

前回の「贋作・見分け方」は、底に孔が開いていて水が漏るにもかかわらず、使用した形跡を色付けたという間抜けな「陶磁硯」の紹介であった。今回は文房四寶の王、硯、それも端渓の古硯をイメージして(?)作られた人造硯の紹介である。

馬肝色の端渓。これに憧れるのは書や画に親しむ人々の当然の心理である。端渓には新端渓も含めるとかなりの抗があり、美しい石文のあるものや眼の入った物があるが、それほど見た目は綺麗でなくとも(元々馬肝色自体が美しいと言えるかどうか甚だ疑問ではあるが・・・)多くの端渓の、薄黒く少し紫がかったような独特の色合いは、硯の雄、端渓硯の証のようなものである。

しかし、硯の事を少し勉強してみると、端渓以外の硯石でも同様の色合いをした石材もあり、そのような石材から「偽端渓」も多く作られ市場に流通しているようだ。端渓に比べると、鋒鋩の鋭さ緻密さ、それに硬さはかなり劣り、入手以降気がつかずに満足している方も見受けることが多い。また、その作り方が宋代に絶えたと言われる「澄泥硯」の中でも、鱔魚黄など明らかに色合いの違うものは別にして全く端渓と変わらない色合いの物もかなり見かける。色合いだけで判断するのは非常に危険な事ではあるが、高価な端渓硯を何十面も所持し、実際に使ってみることのできる人はそんなに多くないということから考えると仕方のないことかもしれない。今回はその姿も立派で、磨墨してみても問題なく、しかしどこか違和感のある、そして驚きの性質を持っている硯について明かす。

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写真でご覧の「円硯」。硯側、硯背に至るまですばらしい彫刻の小型硯である。直径の割に厚みもあり、古硯の風合も持ち合わせている。だが良く見ると硯背に描かれた桃や蝙蝠の輪郭下部がなにやらおかしい。澄泥硯ならともかく、型に粘土を押し込み固めたような大雑把な輪郭である。写真では良く見えないが、更に細部を注視すると隅の方にごく小さな気泡のような孔を発見。勿論天然石にも気泡が入っている事も在るが粘板岩や端渓の輝緑凝灰岩にはありえない。

さては練り物か・・、とライターで炙る。5秒、10秒・・・。出た出た!煙が出た・・。石油くさい臭い。砂を樹脂で固めた物のようだ。しかし柔らかくなったり形は変わらない。おそらくこのまま長時間炙っていたりコンロにでもかければ形も変形し、しまいには燃え出すのであろう。「燃える硯」には初めて出会った。この種の、彫りが超緻密で、それでいて不均一な深さの彫り、そして馬肝色。これらは端渓硯の偽物の最も安くて多い部類であろう。良く気をつけられたし。

蛇足であるが、実際に磨墨してみた結果は・・・。意外と実用には向く。墨の下りも中庸、墨堂の磨耗も普通。褪色もなし。姿が気に入れば自己満足も可能なレベルの文房四寶である。

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