『田舎暮らしの盲点』

『田舎暮らしの盲点』

「田舎暮らし」。その響きは爽やかで格好良くもあり、夢に満ちている。若くて働き盛りだった頃、都会の喧騒にまみれ、仕事に追われ、時間の不足を恨めしく思う人生を全うした人々がほぼ必ず思い浮かべるに違いない事の一つが、定年後の「田舎暮らし」であろうか。またそれを具現する事も目標の一つに置き、第二の人生として成功している方々が少なからず居る事も現実である。

幼少時より、人里離れた竹林に隠棲し、鳥の声や四季の移ろい行く空気に身を置き、詩を読み書画を極め、そして自然の幸を頂くという漠然とした夢を追い求めていた自身もそんな一人であった。そして生まれ育った大都会の生活と職を四十台で捨て、信州の片田舎に越した。そこは空気も水も景色も食べ物も全てに至るまで夢の理想に近かった。

元々、田舎と呼ばれる山村や漁村で先祖代々産まれ育った人たちならともかく、都会で育った多くの田舎暮らしに憧れる者達には、住んでみて初めて分かる事が多いことも現実である。年金を当てにし、「定年後は半自給自足で。」と簡単に考える時点で、まずは志半ばで失望の芽が芽生える。以下にいくつか感じた事を参考に挙げよう。幸いに自身は今のところ克服することができた事が多いが、これはまだ最低限の入り口の方の事柄なので、以下の一つでも問題だと感じられる方は諦められた方がいいとお勧めする。決して意地悪ではなく参考にしていただければ幸甚である。

  1. その土地土地の因習に交わり、沿う。学齢期の子が居なくとも交通安全、消防、水利、日赤、郵便、回覧、公園の清掃、祭の役割分担に打ち合わせ、鎮守の社の諸当番、そしてごみ出しの内容をチェックする地域のゴミ委員まで各種役割は思いのほか多い。会合等も多くあり理由の如何によっても欠席はほぼ不可。まず独身独居では困難。三代続いても余所者と呼ばれる地方も多い。
  2. 虫や小動物が多い。ナメクジ、ムカデ、ゲジ、カメムシなど。勿論それに加え巨大クモやマムシ、アオダイショウ等。時季によって無数のヨコバイや進入してきて室内で卵を産むカマキリ、そしてハクビシンやタヌキ等。全て家屋の中にいると考えた方がいい。生理的な事なので、少しでも畏怖の念がある方はストレスが溜まるであろう。
  3. 過疎地に至っては、コンビニどころか商店も皆無で生活用品の調達に困る。最寄のガソリンスタンドまで30分以上という所も普通にある。一番近い商店やコンビニが週に一度短時間の行商に来てくれる地域ならまだマシ。食材の保管や保存の方法を熟知する必要がある。
  4. 競争相手が少ないので修理等の工事業者を選べない。結果費用が高くつき、期日もかなり待たされる。技術的にも劣る事が多いが他に依頼する事ができない。よって家屋本体やライフラインの設備、そして大切な足である車に関してのある程度の知識と経験が必要。
  5. 食について。これは生まれ育った地方から遠く離れている場合、味なども含め食文化が違う。関東東海の豚文化と関西の牛文化。濃口薄口の醤油の違いなどはよくあることで、甲信越などには食虫文化もある。イナゴなどを食す文化は全国にもあるが、ざざ虫やテッポウムシ(カミキリの幼虫)、カイコ(親の蛾も含めて)ハチの子や親ハチ等、今では少なくなったが訪問先や寄り合いで拒否する事は仲間としての認知を逃す事になるだろう。これも生理的なことではあるが、場合によってはその土地をバカにしているように受け取られても仕方が無い。
  6. 併せて、「自給自足」はかなり難しい。野菜は作れても卵はできない。鶏を飼っても牛肉や豚肉は食えない。牛や豚を飼って野菜の肥料を得る事ができても最初の数ヶ月は堆肥にもならない。また動物は死ぬと処理が面倒である。どうしても月に一回や二回は得られない食材や肥料等をどこかから購入しないといけない。また、天の意志で悪天候が続いたり時期外れの霜や突然の雹等でも野菜や果樹は一瞬にして消えうせる。ある程度の蓄えと忍耐強さが必要である。

その他まだまだ思いつく事はあるが、今回はこの程度の紹介にしておく。それぞれの地域に馴染む為には、上記は最低限必要な事であろうと考える。勿論地域と環境と文化の違いはあり、上記の項目全て克服または習得する必要があるとは言わないが、『朱に交われば朱くなれ』と言われる如く極力克服していきたいものだ。よって、体力と経験と弛まぬ挑戦心が必要で、企業戦士として長年働いてきた方にはこれらの辛苦は現役時代と同じ事で、定年後の『安穏とした田舎暮らし』を考える人にはできない事は明白だ。そのような方は『可能なレベルの環境』を探し出す事が必要と思う。勿論それにも時間と体力が必要である。そういう意味では「思い立った時が吉日」。実行は定年まで待たずに若ければ若い方がいい。

今夜も偉そうに徒然に述べた。計画の一助になれば幸いだが失礼あればお許しを・・・。

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