『中国上海』骨董品購入・仕入れ・交渉術・場所・時期時間帯その他④

暫く間が空いたが、今回は中国人骨董商に多い駆け引きの仕方を紹介する。全ての骨董商や扱う商品に全て当てはまることはないことはご承知おきいただきたい。

上海では中国全土から様々な骨董品や、またそれを売りに来る地方商人も多い。日本人の感覚では片道1,000㌔を優に超すような長距離の移動で、トランクやバッグに入れた手に持てるだけの商品を下げて見知らぬ都会へ行商に行こうという業者は、寅さんの時代ならぬ今ではまずいない。遥かハルピンから上海まで普通列車なら二日半もかかる距離が、国土の広い中国の商人にとっては普通のことであるかのように感じられる。

彼らは遠距離になればなるほど、言語も習慣も扱う商品も違う。首都である北京や他の有名な観光地と同じく、中華圏の中で同じ民族であるのにいろいろな地方の外国人が集まってきているようなものである。上海人にとってはその身なりや言葉から彼らがそうであることは一目瞭然のようだ。そしてある意味上海人のプライドから彼らを蔑視しているような感も見てとれる。慣れてくれば、扱っている商品で東北人か西方の少数民俗か広東福建あたりの商人かある程度察しはつくが、その事とはあまり関係なく「売ってやる」という態度に出るものが多いのが中国人業者の一般的に共通することである。

まず、日本人と判ると、筆者のような普段着で貧乏人然とした身なりでも、目当ての物の値段を聞くと必ず吹っかけてくる。おそらくその吹っかけ方というのが日本国内では考えられないような、最初は10倍から5倍。そして交渉していくうちに倍値くらいで落ち着くと彼らにとっては御の字である。まともな額まで交渉に成功したとしても、その間の労力、時間を考えると、渡航費や滞在費を支払い、滞在日数が決まっているわれわれのような者にはまったく時間の無駄ということに他ならない。よって、最初の価格提示を聴き、すぐに「法外な金額では取引も交渉もできない。」旨を伝える。頭のいい商人の場合はそこで考え直し、一気に相場の倍くらいには落ちる。その時点で交渉のスタート地点である。この段階で手間取る相手であれば、筆者の経験上別の業者を探せばいい。長い付き合いをしようと思えばまったく時間の無駄であることは明白である。

「いくらですか?」「少しまけて!」「いやいや、まけられない・・・・」この後必ずと言っていいほど彼らは商品の説明に入る。ここでよく熟知している商品であればお互いその商品についての談義を始めれば情報交換にもなり、相手にもこちらのスキルを知らしめることができ、お互いギヴ&テイクの商取引ができるのであろうがなかなかそうはいかない商人も多い。ここ10年か20年でかなり開けてきた中国人の頭の中でも、まだまだ頑固な者も多く、自身の商品の説明やよさばかり延々と続ける場合は、折角真剣に交渉しようとしていてもこの時点で打ち切るのが鮮明である。最終的に少量小額、良くも悪くもない普通品を成約完結したところ、気がつけば一時間以上費やしてしまっていたということもよくあることである。

彼らも商売であるのだから損はさせてはいけない、という道徳は日本人は普通に持ち合わせている。しかし忘れてはいけないのが為替レートの問題はさておいたとしても、庶民物価の指数の違いである。近年都会部を中心にすごい勢いで上昇してきるとはいえ、都会部で日本の約五分の一、地方にいたってはまだまだ二十分の一という国柄である。判りやすく例を挙げるとすれば、理髪が日本円で50円~200円、瓶ビール1本約30円~70円という国である。安い安いといってもタクシーなどは彼らのうち庶民にとってはまだまだ贅沢なサービスで、そのことを忘れず交渉しないと、ここでもまた気がつけば大したことのない文物に大金を払ってしまっていたと言うことにもなりかねない。

その他、交渉の途中留意すべき点を少し以下に並べた。ご参考になれば幸甚である。

・先方の当初の提示価格は早期に忘却すること。最終的に「何分の一になった。」など糠喜びは自己満足の世界。

・人間として、同じ商品を扱う同志として仲間意識を持たせる。長い付き合いと深い信頼関係を示唆する。構築できれば庶民には日本人以上の深い情のある者が多い。

・一つ一つ、個々の商品ごとに交渉しない。良いも悪いもまとめていくら?あればもっと出してきて!と大量に交渉。一括いくら?の取引に持ち込む。彼らも多く売れた方が喜び、その分単価交渉に強くなる。また相手が中年以上であれば圧倒的に我々の方が暗算能力に長けていることが多い。

・各論に捉われず、大雑把な感覚で値決めをする。細部に拘ると交渉の振り出しに戻ることが多い。

・支払う金額が、一般的な彼らの生活費のどれくらいの期間の支出額に当たるか頭に入れながら交渉する。少し仄めかし、交渉途中でいったん現金を出すのも効果あり。そのまま受け取るようであれば商談成功!

・露天やフリマのような衆人環視の場での交渉であれば、少量小額の場合は少し高めに購入することも必要。交渉過程を見ていた群集の中から必ず同様の商品の購入を持ちかけてくる者が数人以上は出てくる。数量が要る場合はそこで更に交渉し大量に購入する。その場合、決して「もっと欲しい」とは言わず、「今、購入したばかりなのでもう要らないが、こちらの指値でなら大量に購入してやってもいい。」という姿勢を伝える。現金収入が欲しいのは世の常である。

・商談成約した商人には握手で次の再会(場合によっては翌日)を約す。「朋友(友達)」という言葉が大好きな彼らに「好朋友(ハオポンユウ)」を連発し、必ず連絡先を訊く。万が一の商品の瑕疵や次回商談のため。こうして購入先、取引先を増やしていく。

以上、詳細な機微やノウハウについては伝えきれないことも多々あるが、いずれにせよ自身一番感じ、肝に銘じていることは「朱に交われば朱くなれ。」という言葉。ある意味「日本人の常識は世界の非常識。」ということは、海外渡航の多い日本人が洋の東西を問わずよく感じることである。

⑤に続く。

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