天皇皇后長野県行幸啓の様子(2)・飯田天竜峡りんご並木阿智村満蒙開拓

(前号から続く)

11月17日正午過ぎ、天竜峡行幸啓をお迎えした後、次のご訪問地である飯田市街地に向け車を走らせた。勿論再度お迎えする為である。

本日はなんと天気がいいのだろう。向寒の折という言葉がふさわしいこの信州の地において、秋晴れと言うか、単に寒くないだけではなく空は澄みきり、陽光眩しくかつ無風の天候だ。山の多い地形ゆえ滅多にない日和で、両陛下の訪問される先はどこも晴れ渡るのかと感じてしまう。

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市街地はやはり観光地の天竜峡と趣を異にし、昭和23年の大火で町の大半が焼失しきったという過去を一切感じさせぬ、しかしまたその当時の生活の面影も少し残す、「山都」という言葉にふさわしい長野県最南端の行政の中心の街である。

少なからぬ人たちが、二人、三人、五人といくつもの集団で歩いている。彼らの向かう方向は同じで、それを誘導する警察官も異様に多い。両陛下ご到着までまだ3時間ほどもあろうというのに、普段の町の光景とはまったく違う人出だ。

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軽く昼食を済まし、市役所近くのご訪問予定地、通称「りんご並木」方面に向かう。日本の道百選に選ばれた300メートルにも満たない文字通りこの季節、真っ赤なりんごがなっている道である。りんご南限の地として、近くの中学校の授業の一環として生徒たちが育てているりんごだ。両陛下はその生徒たちにお声を掛けられるご予定らしい。

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近くに来ると沿道には数百人というほどの市民が歩道を埋めている。りんご並木では陛下ご到着の際は通行禁止になるということで、その群衆の端にて待機することにした。

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程なく歩道は人で埋まり、警備の私服警官たちは彼らに向かって注意事項を話し出す。その内容はお車の順番や前方をお通りなされる際の行動についてである。ここでも何分前にはどのような車が通過し、最後は陛下は何台目のご乗車されているというという説明の後、「大声で迎えるな。」「日の丸の小旗は大きく振るな。」「さもなければゆっくり走行していただけない。」など、警備側の都合の説明ばかりで、ご老人や体調不良の方がおられた場合の案内など一切なかった事が残念である。

紙製の日の丸の小旗が配られた。旗竿まで紙製だ。警備の私服女性警官から前方の方にだけ配布しているのを見て、後ろにも配りますよと一掴み受け取り後方に回した。庵主のいた場所以外の後ろの人はどことも全然行き渡らず、何かおかしな気分になった。この旗はどなたのご配慮で配られたかなども分からずじまいであった。

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約1時間半の待機の後、遠方の様子が変わり始めた。いよいよお車が通過されるようだ。天竜峡の時と同じく先導の白バイのあと、黒塗りの二台目だ。天竜峡周辺とは違い市街地は平坦な地ゆえ、立ったままだと車中の両陛下より高い位置から見下ろすことになる。

そんなことを考えている間に一瞬にしてお車は通過された。だがしかし、今回もしっかり両陛下のお顔を拝むことができた。そして万歳三唱もできた。やはり今回も大きく神々しく感じられた。我々国民と祖国の安寧をお心全てで願っておられる有難い落ち着いたお顔であった。戦前ならご通過遊ばされる際には顔も上げられなかったという天皇皇后両陛下である。本日二度もお顔を拝見した不躾をお許しいただきたい。

ご通過の後、瞬時に周囲が騒がしくなった。「見えた見えた・・・。」「撮れた撮れた・・。」「前の人が邪魔で写っていない・・・。」等々、物を見たり、自身のカメラやスマホに芸能人よろしく画像を入れ込むことばかりに専念している日本人を多く見た。そして両陛下のお元気なご様子に安堵し、末永くご健康であられることを願う言葉などは、周囲に限っては一言も聴けなかった。教育の退廃をはっきり感じた。

警備の解除がなされた後は、通常考えられない群衆の移動が始まった。職場に向かう人も居ただろう。天竜峡よりも多い群衆の様子を観察しつつ、戦後の行き過ぎた人間天皇の悲哀を感じたのは庵主だけであったろうか・・・。

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少し時間を置き、再び移動した。御泊所である昼神温泉に向かう。日が暮れ、着いた頃には薄暮。無事ご到着されたようで、すれ違う車の列の向こうにガソリンスタンドに並ぶ10台程の一列に並んだ白バイを見た。警備の併走が終わり、明日に備えて給油しているのだろう。このような山間部でこれだけの一列に並んだ白バイを見ることはまず無いであろう。

両陛下の御泊所が見える位置に足湯がある。足湯につかりながら、その方角を向き、今日一日のお疲れを充分癒され、そして明日のご予定の無事終了なされることを願う。そしていつの日か、この風光明媚で日本の原風景あふれる南信の地に、お元気なお姿で再び行幸啓されることを心から願った。

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