『野生の幸・シカ肉』初料理・もみじ肉・健康食品

最近は野生の鹿が増えた。今世紀に入る少し前から北海道でもエゾシカの急激な増加により、それらを食肉として利用を促進する動きが出てきたそうであるが、本州以南でもニホンジカの急激な増加により有害獣として捕獲される事が多くなったという。今では猪などの他の野生動物等と共に、捕獲または銃猟一頭についていくら、という具合に奨励金を出す都道府県もあると聞く。

元々ニホンジカの肉は栄養学的にも高たんぱく、低脂肪ということでかなり良質な為、生食、鍋物、炒め物その他に使われている。少し前の頃のそれらは、野生のものもあるが、捕獲して飼育したものや最初から飼育したものが中心だった。野生のシカ肉は都会に居る一般庶民にはなかなか口に出来ないものだった。それがここに来て、猟友会等にて駆除された野生のシカが市場に多く出回って見られるようになってきた。そして今回、その野生ジカの肉の一部をいただいた。

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雄、雌、そして若い鹿のそれぞれが、硬さや味が微妙に違う。牛や羊、鶏でもそうだが当然の事であろう。そのあたりも訊いておくといい。調理をする際の時間や方法にも参考になる。そして当然どこの部位であるかも確認できればいい。内臓の周辺なのか脚の先の方なのか、それによっても前述の衛生管理や調理方法に対する対応が変わる。

さて、今回いただいたシカ肉は、「当日の朝、近隣の山中で銃で仕留め、その直後専用の場所まで運び、速やかに血抜きと解体をした少し小型のメスの鹿」で前脚だということであった。部位的には全ての部位を食べ比べた事がないのでそれがどういった価値の部位か、そして最良の調理方法は?と考えると知識はない。とりあえず確認した内容からは衛生的には問題ないと判断し、夕食までに骨を外した。しかしここで小さな問題が発生。シカの前脚の骨の形が理解できていない。牛刀で肉を削ぎ落とす際、ついつい欲張り大きな塊にしようと深く切り込むものだから曲がっている骨に刃が当たり止ってしまう。それではと浅い目に剥ぎ、骨に残った肉は後でそぎ落とす事にした。

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また表面には解体時の雑草の屑や若干の土と思われるものも付着していたので一旦丁寧に水洗し、表面も薄くそぎ落とし別に除けておいた。文字で書くのは簡単であるが、その作業も骨が折れた。というのも、死後硬直のせいか玉葱の薄皮のように見える筋膜がかなり硬く、一番表面にあるそれは融けかかったようにヌルヌルしていて実体が無く、包丁が滑る。そして悪戦苦闘の後約一時間後に、やっと、「表面の肉」「空気に触れていなかった塊の部分」「骨」とに分ける作業が完了。骨は食えないので何かに使おうかと思案したが、結局捨てた。骨から削ぎとった綺麗な赤身の肉屑、これは本当に綺麗な荒挽きミンチになったので、これも別に分けておいた。更に、一度に食しきれない量と判断したので、次回調理の際手間がかからないように「塊」の部分は適当に手ごろな大きさに切り分けた。そして、「塊の肉」のいくらかを小分けし、冷凍庫に放り込んだ。

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まな板と牛刀を洗い、やっと調理にかかる。さて、どう調理してやろうか?楽しみな一瞬である。まず、この新鮮さを生食しようか?しかし・・・、やはり止めた。今までの作業を思い出すと刺身で食う気にはなれない。では、と、素材の味の分かるようにフライパンで炒めて塩コショウか・・・。やはり日本人だ。余計な調味料や、煮込み料理のように素材の味が解かり難くなる調理はやめよう!素朴な物が最高である。「山賊料理」「お狩場焼」である。これなら時間もかからない。油は少し使うが・・・。そして、炒めた。

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肉の風味を中に閉じ込めようと、牛肉を焼く要領で表面を強火で、両側を焼いた後はとろ火で・・。表面の肉と筋膜のついた肉をそれぞれ焼くが、想像通り肉の繊維方向によって縮み方が違う。仕方ない、表面をそぎ落とした部位もあるのだから当然の事だ。暫くし、いい焼色になったので火を止めた。そして手塩皿に盛った塩コショウを少しだけ付け、最初の一口を頬張る。

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うん!?硬い・・・。思ったより硬い・・。筋膜もかたいが身も硬い。そうである、肝心な事を忘れていた事に気がついた。シカ肉はヘルシーなのだ。要は脂肪分が少なく、たんぱく質が多いので牛や豚の感覚で焼いてはいけない。そのこと事前に聞いていたのに失念していたのだ。血抜きを充分にしていても鉄分含有量が多いので、多くの身はルビーのように赤い。焼けば牛や鯨のように茶色くなるので、炒めるという最後のこの局面にして間違ったのである。身体に染み付いている思い込みの感覚や先入観というのはおそろしいものだ。おかげで口の中で虫歯に入り込み、その硬い肉片を除去するのに一苦労した。また加えて、筋の部分の固さはかなりのものだ。牛筋など比較にならない。その所以は全て、脂肪分の少ない肉質であるのが原因なのだろう。

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切身ではなく、骨から鹿肉を剥ぎ取る所から調理したのは初めてである。次は機会あれば解体や血抜き、そして皮剥ぎや内臓の処理についても現地で体験してみたい。生きる術として普通に我々の先人達が体験してきた事である。経験が無かったこそこそ、獣肉を食する人間として恥じる事かもしれない。経験者にとってはごく普通で当たり前の作業であったかもしれないが、筆者と同じく体験された事のない方においては一度体験してみてほしい作業である。

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