『田舎暮らし・春の山菜の効用』

山村での「田舎暮らし」といえば、都会住まいの大抵の人たちがまず想像するのが、おいしい空気、うまい水、喧騒の無い静寂、そして眺めの良い風光明媚な環境であろう。そして、次に渓流の魚や春秋の山菜やキノコ、地域によっては養蜂やイナゴ採集もあろう・・。

さて、今回は春の山菜の効用について少し述べさせていただく。地域によって採集できる種類や時季も違うので、あくまでも全国一律の考えではなく、中部地方のごく一地域の事ととらえて読んで頂ければありがたい。

ワラビ、ゼンマイ、コゴミ、クサソテツなど、一般的なものは当然のこと、簡単に採集できるものとして数え上げれば山村には限りなくに近いほどの食に向く山菜がある。フキノトウ、ツクシ、ノビル、ニラ、ウコギ、ミョウガ、セリ、ワサビ、ミツバ、サンショウ、タラ、コシアブラ・・・、タケノコ、これも孟宗、真竹、破竹と時期を追って収穫できるしその他数え上げればきりが無い。そしてそれらは雪解けと共に一気に順を追って休む間もなく地表や梢先に出現してくる。

それぞれの山の幸にはそれぞれの調理や食し方がある。これも地方により差異がある。西日本で「若竹煮」と言えばタケノコと旬のワカメのたき合わせであるが、ワカメの採れない信州では昔からワラビと共に煮るという。ノビルはそのままか味噌を載せていただく。フキノトウはフキノトウ味噌に、ミョウガは味噌漬けか塩漬け、沢ワサビは包丁で叩いて出汁に和えそのまま食す。タラやコシアブラは湯通しするか定番の天ぷらで・・・。

当集落でオコゲと呼ばれる山菜は学名ウコギ、地域によってはオコギと呼ばれその新芽を湯がき、あるいは天ぷらにして食すが、かなり新鮮な春の香りが強い物である。この地に来て数年後、自宅の庭に植えられているのを全く知らず、初めて食した際の新鮮な味の驚きは今でも忘れられない。地元の衆の中には、あまりに短期間しか収穫できないその山菜の香りを「入学式の頃の香り。」で表現する人も居り、「青臭くて好まない。」という人も居るくらい、おひたしにしても鮮烈で爽やかな春の幸である。聴くところによれば全国でも長野県と東北の一部でしか食されていないという山菜である。

時季時季、その時どきの春の幸、それもその地でしかいただけない食材が周りに追いつかないほど次から次へと溢れ出してくる時季に、アイターンで山村に来た人間は時にして食べすぎ、腹を壊す。しかし、ある時地元の衆から次のような言葉を聞いた。「冬篭りしていた身体を、灰汁の強い春の山菜をいただいて、おなかの中をすっかり綺麗にし、これから向かう暖かい季節に順応する身体に、体質を変える大切な恵みです。」

医学的なことは分からないが、先祖代々棲んできてそう言い伝えられつつ継承されてきた考え方。素晴らしい考えであると目が覚めた。筍の食べすぎで出る吹き出物や山菜三昧の食で不足するカロリーや脂肪等の栄養素。それらを恐れることなく、大自然の中で田舎暮らしを続けようとするならば頭の隅に置いておきべき知恵なのであろう。

大都会で生まれ育ち、季節感無しに食材を購入し食べ続けてきた我々には、最初は慣れない食に対する身体の反応で慌てふためくかも知れないが、長い目で見ると極力早く取り入れたい知恵であると考えている。

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