『近江の幸・イサザの佃煮』(滋賀県)レシピ有り

「イサザ」と言えば北陸や東海地方にも良く聞かれる海の幸である。しかし、今回紹介の「イサザ」は滋賀県の琵琶湖にのみ生息する淡水のハゼ科の魚の事である。世界中で、琵琶湖の、特に北湖の水深がある地にだけ漁獲される絶滅危惧ⅠA(CR)種であり、体長は5センチ前後と小さいが、今や高級魚である。独特のうま味に満ちており、幼少時よく母の実家で食べたものだ。その頃は琵琶湖畔の各家庭の食卓には普通に丼鉢に大盛りされ置かれていたもので、用事も無いのに食堂を通る度によくつまみ食いしたのを懐かしく想い出す。

1960年代から80年代半ばまで150~600トン前後有った漁獲量は、ブラックバスやブルーギルの増え出した1995年頃には1トン未満という、ほぼ絶滅に近い勢いで減少して行ったが、最近は原因不明の回復が見られるという。しかし、まだまだ水揚げ量は往時のレベルまでは回復していないと聞く。鮎、モロコ、ハス、ゴリ、エビ、セタシジミと、固有のおいしい水産物が豊かな湖産資源の中において、ここまで激減した湖産物はほかに無い。佃煮等の土産物店でも全くと言っていいほど見かけられなくなっていた魚である。

ところが先日、湖岸西北方の小さな町のスーパーで、水揚げされたばかりの「イサザ」が並べられているのを見つけた。調理前の生の姿のそれらは、子供の頃佃煮として好んで食べた調理済みの物とは色も雰囲気も違うのだが、形は全くその面影を残していた。当然のこと買い占める如く大量に買ってしまった。そして大急ぎで調味料を購入し一目散に自宅に飛び帰った。

ここからが秘伝のレシピである。ただ、冷蔵庫も高価格だった50年ほど前の郷土料理のレシピであるから、最近のみやげ物店で売られている減塩、甘露煮のような物とは違う。今では有名な、湖岸の某料理旅館のレシピと同じである。大量に食すには現代人には塩分量が多いかもしれない。しかし、これが湖族の料理なのである。以下にそれを暴露する。

「イサザ」1キログラムに対し醤油1.2~2合、酒1合、砂糖200グラム。山椒や梅干のような匂い消しに使うものは何も入れない。これらを合わせた出汁を沸騰させ、一気に全ての「イサザ」をその中に入れる。簡単な水洗だけで勿論腹など抜かない。放り込んだらそのまま強火で、煮詰まる一歩手前まで煮込む。灰汁は殆ど出ないので、出汁が僅かに鍋底に残った状態の時を見計らって笊に上げ、冷めるのを待つ。これが全てである。「イサザ」本体の味が出汁としても生きており、絶品である。入手はかなり困難ではあるが、見つければ是非試して頂きたい。この魚独特のコクと深みが充分堪能いただけると確信している。

CA3H0033

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク