今回も交渉術の機微について少し触れよう。ただし、全ての交渉に当てはまるわけではないことは御了解いただきたい。また、取引物件は骨董工芸品。場所は市内いたる所の路端の骨董商や古玩城(骨董商ばかり入っているビル)の中で定期開催されるフリーマーケットでの交渉が中心と考えていただきたい。
通常、店舗を構える骨董商もフリーマーケットが開催される日は必ずどこかの市に出店している。店では高級な物。露店では不要な物を売っているようである。また、日本のフリーマーケットの出店者のように時には他の出店者のところを回り気に入ったものを買い付けするようで一時的に売り手不在ということも多いが、彼らは盗難を極度に注意するので少し待てば必ず自身の出店場所にもどって来る。
ビニールシート等に並べられた彼らの商品は、どの販売者も同じような類の物が多く、じっくり一点一点確認していくのは難しく、店主不在のところでは店主が戻るまでの間にじっくり交渉物件を眺められることが多い。交渉しながらでは商品の状態なども見落としがちで、店主がいればこちらの目の追う先をじっと見て、何が欲しいか彼らに筒抜けだ。欲しがっている物を見破られないようにする事も肝要であり、彼らには先に高く売りつける理由や文言を瞬時に考えさせないようにしないと、交渉に遅れを取ることになる。
要は先手必勝。時には先に目当ての商品とは別の商品について色々と訊き、気を削がせ、いきなり本命の商品について交渉を始める。そうすれば大概の出店者は比較的まともな値を言うことは経験済みだ。
基本、まず、観光客と思われてはいけない。次に専門外の商品を欲しがっているように思われてはいけない。先に必ず伝えなければならないのが以下何点か。
1.同様の商品を仕入れ販売している同業者である。
2.良心的に安くしてくれれば大量に購入し、末永く取引する。
3.法外な値付けをするようなら以後の交渉はしない。信用が大切。
4.日本人だが、中国の文化には敬意を表している。
5.場合によっては商品になる程度なら破損品でもいい。
大抵これくらい伝えれば先方はまじめな態度になる。そして次に焦らず日本での同様の商品の売れ行き状況の実態や、商品についての歴史的背景や工芸的素晴らしさ等、直接価格に関係のない話をする。ギヴ&テイクでこちらの提供するのは情報で、先方には価格面を下げることを主眼に交渉を始める。
メインの商品の交渉が終わったら、その交渉過程でもいい、必ず「まだたくさんあるか?」と、暗に大量に購入する意志を匂わせる。これは大切なことで、大量に購入する可能性を示唆し、大抵の彼らは不要な物を並べているのでその中から彼らが売り切ってしまいたいような物を抱き合わせでいくつか購入する。そしてなるべく数多く購入する。そうすることにより彼らにもギヴ&テイクの感覚が生まれる。
ある一定の年代以上は掛け算や引き算や、要は暗算が苦手なようで、大量多種の交渉においては計算をしだすと1個あたりの価格の計算ができない人も多いようである。先手必勝で計算を迅速にすると交渉がうまくいくことが多い。
次回は引き際等、駆け引きの具体的な部分についてさらに踏み込む予定である。
④に続く・・・。