●信州の名所●『南信州・市田柿』柿暖簾・飯田高森松川天竜川霧

ぼちぼち今年も柿干しのシーズンである。

南信州にアイターンで移住した際、行政の農政課に通い種々教えを請うた。この地では、米、野菜、酪農に加え、産地日本南限のりんごを含む果実から、当時全国でも最先端を進んでいたキノコ農家の経営資料や養蜂など地域色豊かな農業経営の資料に混じって、干し柿作りの資料も充実していた。それによると「干し柿」の最高峰「市田柿」の発祥地域でもあり、「南信地域の農家のボーナス」とも言える付加価値率の高いことを証明するデータも在った。

干し柿の一大ブランドである「市田柿」。発祥は長野県下伊那郡高森町市田周辺との事であるが、隣接する松川町、飯田市、喬木村、泰阜村、下条村等々、南信州を代表する秋の作物となっている。

この時期収穫と柿干しに明け暮れる農家だが、他の作物の時期が終わり、柿の季節は短期間・短時間勝負でかなりの労働力を必要とする。

柿干し場の消毒や確保から始まり、収穫、皮むき、干し作業、粉出しの為の数回にわたる柿揉み作業、その合間に硫黄薫蒸、そして取り入れ、パック詰めまで、この時期はどこの農家も短期決戦で深夜までの作業が続く。他地に嫁いで行った親戚まで動員しなければ間に合わないという農家も多い。更には高齢化の進んだ山村の最大の弱点である労働力不足の対策として、最近では収穫から製品完成までのプロセスをアウトソーシングするところも多く、究極は外国人派遣労働者を使ってまで乗り切るところもあるというのが現実である。

さて、そんな状況なのでこの時期のこの地域一体は「柿色」一色になる。どこの柿農家にもある室内の柿干し場は勿論のこと、家屋や蔵の周囲、ガレージ、仮設のビニールハウス、そしてその昔、「お蚕様」を育てていた部屋までもがその製造工場の一部になるのである。

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最近は農協の衛生管理基準も高くなり、皮むき作業ひとつ取っても、手作業から半自動、そして今では全自動に近い柿剥き機の機種の基準まで厳しくなり、押し寄せる山村の高齢化率と相まって干し柿作り殻撤退する農家も増えてきたが、それでもまだまだ小集落ごとすべての家の周囲が「柿色」に染まる地域が多い。

作る人有れば観光客も多く、この時期、日ごろ他所の人の来ない小盆地などでも、休日になると観光バスや乗り合い自家用車等でのにわか写真撮影集団が訪れる事になる。その状況の是非はさて置くと、それほど風流でかつ稀有な光景なのであろう。改めて見渡すとそれも頷ける見事な柿干し光景であることは確かである。

皮を剥き、干し出して数日間は明るい柿の色で実の大きさもかなり大きい。日がたつにつれ黒ずみ、そのうち飴色になり最後は噴いた糖分のため白っぽくなってくる。その間にも日よけや寒冷紗などで覆ったり日ごとに作業が進み、ある一日だけ見ていてもその変化は読めないが、住んで観ていると日々変化がある。

見事な干し柿を作るのには、環境や気候に適した柿の品種選定も必要だが、その土地特有の気象のかなり影響している。市田柿に関しては、日中と夜間の高い寒暖の差異、天竜川の存在による必要な湿度、特にこれについてはこの時期毎朝のように垂れ込む寒気と放射冷却による川霧が必要で、それらが揃うこの地ならではの、全国他所に見ない最高品質の干し柿生産に向いているのだと実感している。

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製品にする為には「見栄え」ということも必要なようで、黒過ぎず明る過ぎず、固すぎず柔らか過ぎない、それでいて糖度は高いということが絶対条件ではあるが、少しここだけの話をすると、生産農家の自家用干し柿は少し違い、皮を全て剥くのではなく、一部残して剥き、半分に切って開く「ずくし柿」という名で自家用に作られる干し柿が一番美味いと言われる。商品としての見栄えに統一性がないので出荷されることはまず無いが、機会があれば一度入手され召し上がっていただければ納得いただけると思う。

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右側が「ずくし柿」

いずれにしろこの「市田柿」、最近は発祥の地である市田周辺より密集して作られている飯田市の周辺小集落など、集落のほぼ全戸が柿干しの状態で観光としてはかなり素晴らしい地域が多い。12月半ばまでにほぼ全て収穫されるので、今の間から通いつめ鑑賞されることを自信をもってお勧めする。

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大量に剥かれた皮も商品にはなるが地元では畑などの肥料として撒かれる。

アイターンで古農家を購入、我が家にも「柿は無けれども柿干し場はある」立場の雅案主からの推薦である。

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