遂にこの歳になるまで、唯一の未踏府県だった高知県に足跡を標すことができた。
関西方面から淡路島経由で徳島から車で約4時間。一般道を走るという見地からは、日本地図で一見すると同程度の和歌山県・潮岬への所要時間とは格段に違って、容易に辿り着ける感がある。
その理由はいくつかあり、おそらく南紀のリアス式海岸の海岸線と比べると、同じ海岸線でもかなり直線的であること。
そして、新しく作られたパイパス等の建設により、小松島を越えたあたりからどの車もかなりのスピードで走る。
更に車が少ないこともその理由であろう。南下するに従って車が減り、その分スピード違反の取締りには注意が必要なようである。
岬が近づくと、海沿いの一直線を走ってきて初めての右折三叉路を右に向かうと、室戸市外だ。曲がらずに直進すると5分程度で岬に着く。
小学校に上がる前の幼少時、「第二室戸台風(昭和36年)」なるものの被害を大阪市内にて受け、当時の油ぎった川の水に自宅が浸かり、瓦が紙切れのビラのように飛んで行くのや強烈な風を体験して、またその時母からも「室戸台風(昭和9年)」の被害も聞かされ、「室戸」という言葉には強い厳しさのイメージがあった。
室戸市内は交通面ではかなり寂れて来ている。高知方面、大阪方面行の直通バスはすでに廃止されている。徳島方面からは高知県内までの鉄路もない。ますます不便になってきたことで、観光地特有の喧騒や商売っ気が全く感じられず、そういう意味で稀有な観光地であろう。
岬周辺には数百メートル間隔と言わず至る所に無料の駐車場が確保されている。トイレも何箇所もあり、観光案内所も小さいながらきちんとある。そして交通に気を遣う民家も殆どない。海岸には遊歩道や案内板・説明板が、学術的にもまじめできちんとした内容で立てられており、何よりも風光が抜群である。灯台方面に上がるスカイラインにも展望台や駐車場が整備されており、そういう意味では行政のきちんとした対応が垣間見られる。国定公園の園地という事もあるのであろうが、全国を周っていてこの地の満足度は自身の中でかなり高いものになった。
四国遍路の寺があり参拝者の姿も見られるが、遍路目的ではなくとも周囲にはかなりの見所がある。
地質学的に多層多様の地質があり、地学的な満足感も得られ、磯釣りや巣もぐりでは大型の石鯛なども獲られ、空海ゆかりの神社仏閣、天然の洞、維新の志士・中岡慎太郎の銅像、そして、海洋深層水を利用した温泉などもある。筆者が日帰り入浴で使ったホテルの入浴料金は500円だったが、平日のせいか観光客が少ない故、退場まで貸切状態であった。
また、この時期、気候の温暖なことにも驚いた。実はこの地に訪問したのは、徳島に用があり、昼過ぎその用が済んだ後関西方面に帰る予定が、生憎大荒れの天候になるというので一日予定を延ばしついでに足も伸ばしたという理由からであった。
覚悟していた室戸岬の悪天候は、別世界に来たかのように暖かく穏やかで快晴であった。その暖かいこと。夏の南方系の蝶であるアサギマダラなど、普通に身近にまで飛んでおり、1月中旬というのに櫨の紅葉や菜の花畑、海岸沿いの遊歩道や岬を構成する山にはウチワサボテンの大木や数々の亜熱帯樹が密集し、どことも緑緑していることには驚いた。
地元の青年に「暖かいですね!」と声をかけると、「今日は冷やこい・・。」と言われ驚きの余りしばらく話し込んでしまった。台風銀座で、厳しい自然と対峙している彼らにはこの時季だけが過ごしやすい時季なのかもしれないとの錯覚に陥ったくらいである。
市内には大手スーパーがなく、地元スーパーマーケットがちらほら。そこでもこの時季、トマトきゅうり茄子という夏野菜が、実際殆ど夏場の価格に近い金額で売られており、逆に惣菜や弁当の類は少量しか販売されていなかった。鮮魚も余り多く売られていない。黒潮流れる海に直面しているにも拘らず、水揚げする漁港がないのでと聞いた。そして室戸に来て生まれて初めて見た「昆布だけで作られた特有の巻き寿司」が異域を感じさせてくれた。
たった一日半居ただけの室戸岬周辺だが、この時季は本当に気に入る地であった。本来は観光とはゆっくりじっくり考えながら味わうものだと考えている。観光バスで大人数で時間にせかされ・・・、というのは観光ではなく、ただの行脚であろう。そういう意味で、今回のこの季節の室戸訪問は最高であった。
暗さを感じさせない陸の孤島。室戸市万歳!!
以下紹介写真(順不同)
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