『文房四寶・陶磁硯・童子揚凧山水図白磁硯』徳化窯・書道具

文房四寶の第一は硯である事に異論のある方は少ないと思うが、その中には材質により各種ある。まず連想するのが端渓、歙州、雨畑などの石硯。通常は硯というと石製である。次いで多いのが今回紹介の陶磁硯であろう。材質の違いから見れば、それらの他に、玉硯、鉄硯、銅硯、竹硯等々あるが、それらの紹介は後日として、今回は上記の白磁硯について紹介する。自身の所有していたものであるが、今回は鑑賞が主になるので写真を少し多めに掲載し、無粋な説明は極力控える事をご理解いただきたい。

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まず全体の姿である。墨池を空に見立て、あるいは池に見立てているのかもしれない。手前に水牛の背に乗った唐子が、よく見ると対岸に向かって糸を曳き、凧を揚げている。右手の松の木を手前に見立て、左側に、連なる山々を描き、遠近感の描写方法がユニークである。牛は後方を向いており、落ちそうになりながら、それでも凧をより遠くに揚げようという唐子の心が伝わってくるようだ。徳化窯のお家芸である、細かく、且つ、まろやかな描写が成功している一品である。

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通常、硯というものは墨堂で墨を磨り、得た墨汁を墨池に溜める。しかし、この硯のように鑑賞を主な目的とする物には、墨堂と墨池が一緒になっており、水を溜めてそのままそこで磨る物もある。しかし、更に深く言えばこのような鑑賞硯で大量の墨汁を得ることは当初から考慮されておらず、少量の墨液を得るのであれば墨池と墨堂は一体であってもなんら差し支えない。とは言え、やはり磨墨するのであれば墨堂に異物があってはならない。そういう意味でこのような墨堂の中心を細い凧糸とは言え線が走るのはタブーであろう。そのことを意識して凧糸の中心部分は消したデザインになってるが、大胆で且つ奇想天外な図案である。

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陶磁硯といえば、唐代前後の実用硯、そう、当時は固形の墨を磨墨するのではなく、丸めた粘土状の半練り墨の塊を、焼き物の硯の中心部で押しつぶした故に陶磁硯は実用硯でありえたが、中世以降文人階層が出現し、文房に文人たる趣の文物、要は文房四寶を並べ、愛玩するようになってからの陶磁硯の性格は、明らかに実用硯では無く鑑賞のための物に近い性格の道具になった。文化の深まりと共に、明代以降はかなり陶磁硯の性格は変わり、その殆どは、岩彩や色墨を少量得る道具になった。岩彩や色墨は大量には使わないので、そういう意味ではこの硯のようなデザインはあり得ると考える。重ね重ね奇抜で緻密なデザインだと感心する。

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この陶磁硯のもう一つの特徴を見てみよう。松ノ木の幹の横に凹みがある。実用硯では無い性格が高いとは言え、平らな墨堂に凹みがあるのは悲しい。しかしよく見るとそれはただの凹みではなく、松の葉の陰刻である。ここでも、硯という物に更なる奇想天外な手法で以って遠近感を与えている。すばらしい感性である。

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今回は自身の一番好きな陶磁硯を紹介した。今後も時折続けようと考えているので、ご興味のある方は楽しみにしていただければ幸甚である。

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