『中国上海・豫園商場』骨董品購入・マル秘情報「蔵宝楼の地階」⑦

久々の上海仕入れ情報である。シリーズのタイトルに「豫園商場」という句を加えた。また不要な語句を排除し、今回の紹介内容が解りやすいように「蔵宝楼の地階」という表現も入れた。今後は同様にしていこうと考えているが、仕入れ術や情報の紹介に徹することは変わらないのでご理解いただきたい。

さて、今回マル秘情報としたのは、前回までの蔵宝楼の紹介では、基本的に誰でも探訪できる階やスペースの紹介をしてきた。今回は少し趣を変えて一般の観光客や部外者が中々入れない場所、地階の一部について紹介する。

建物の正面玄関に向かって右手。正面玄関と右手の方には必ず制服を着た警備員が控えている。正面玄関を入る際は特に問題なく、強いて言えばここ二三年というか、上海万博の頃から格好をつけてかどうかただ立っているだけで特に何の問題もない。よって、彼らもまたビルの正面では立っているだけで暇そうにしている。

しかし、ビルの屋外である右手に椅子を置いて座っている警備員のさらに右手には、ビルの右側面を回ってどこかに行ける通路があり、その通路の入り口には門扉がある。おそらくそこに入る人間をチェックしているのであろう。この奥、すなわち建物の右側面の様子をまず紹介する。

警備員には、自分用に持参した日本の菓子でもやり、仲良くなりフリーパスの身になると次回よりは大きな顔をして入り込むようになれる。中国での滞在の醍醐味のひとつかもしれない。通路を左へ曲がりビルの右側面には細い通路がある。雨が降れば濡れるが、その細い通路の右側には有料のトイレ棟があった。

現在はビル内の無料トイレは改装され、個室もあるのでここを利用する者はいなくなったが、以前は公衆トイレは2角(1角は1元の十分の一・当時約30円)払わされた。話は逸れるが、市中の観光地では2元のところが多いので安いのは安いが、初めて海外に出たような平和ボケに犯された日本人には「たかが小便で・・・!」と我慢することになる。ただしそこも警備員と同様、自分用のお菓子が物を言う。

トイレ棟の前に、地下に下りる階段がある。怪しまれるといけないので大きな顔をして降りていくと、そこは通路に白熱電灯が一つ二つ下がっているだけの地価牢のような空間である。じめじめしていて地面も壁も汚れに汚れたコンクリート打ちっぱなし。そして両側にいくつかの扉がある。

扉を開けると、どの部屋も焼き物や銅器、陶器の人形などが整然と天井近くまで積みあがっている。要するに蔵宝楼の商人たちの地下倉庫であった。今は用がないので最近は入ることはなくなったが、初めての際は通じぬ中国語とジェスチャーだけで骨董業者に付いて行ったので、扉が開けられる直前には「ひょっとしたら、ここで命は取られぬとも身ぐるみはがれるかも・・・。」と不安がよぎったような空間である。

内部の商品の立派さとその数の多さには驚愕したが、それよりもその地下通路にいつもニ三人の子供がいたのにはもっと驚いた。何日も洗濯されていないだろう真っ黒になったランニングシャツとこれまたみすぼらしいズボン。顔や頭には泥も着き、歳の頃は10歳前後であろうか・・・。倉庫の中に出たり入ったり何やら作業している。

気がつくと地下倉庫の入り口にバケツが三つ。少年達をしばらく見ていると筆者はすぐに理解できた。おそらく普通の日本人が同じ体験をしているとして何人が理解できるだろうかという作業をしている。

バケツの中には一つは汚れた水。別の一つには壁土のような泥。もう一つのバケツには何やら液体の薬品のような物。それらを唐三彩の人形や馬に塗りつけている。そう、古く見せるために泥のようなものを塗布しているのだ。発掘品に見せるため、土は洛陽や西安などの古い都のあったところから運んできた土を使っているという。

そして何よりも驚いたのは、乾いてもとれないように上から薬品を上塗りしている。塗り終わった人形たちは段々増えてきて土間に並べられる。薬品の臭いは異常な臭いである。一心不乱である。

どういった縁の子供たちか知らないが、これを日課というか稼業にしているのであろう。後日聴いたところによると、磁器にはもっときつい薬品を塗布するという。その作業に当たる老人たちは揃って早死にするという。恐ろしい現実だ。

「古く見せられた人形」というだけでは単なる発掘品や骨董品の贋作を作っているだけであるが、その作業に使う意味不明な薬品や、この人目に付かない地下の通路で子供たちが作業に当たっているという現実の社会。今の日本では考えもしない現実がこのような世界的な観光地のど真ん中で行われているのを目の当たりにして驚きを隠せなかった。

その後数回ここを訪れたが、お客である筆者を得意先としたいこの地下に倉庫を持つ二人の業者間で「客の取り合い」になり、最近はこの地下倉庫に行かないようにしている。というより、子供たちのなす作業を想い出すとここまで来て商品を購入しようという意識は失せた。

何も知らない観光客は平気で商品に触れる。もしやあの液体が・・・、と考えるとこまめな手指の消毒が必要であろう。最近はウエットティッシュか湿式のおしり拭きを日本から持参し、いつも携行している。

今回は少し考えさせられる現実を敢えて暴露した。

次回は一階売り場の様子について少し詳しく述べよう。

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