『廃品回収業の友人』産廃・解体・古物商

もう15年来のユダヤ系ブラジル人の友人の頑張り。知り合った頃、彼は20台前半だった。日本語もたどたどしく語彙も少なく、精密機械工場へ勤務する派遣社員だった。ある日、新たな仕事がないかと尋ねてきた。どうやら工場の仕事量が少なくなり、退職したようだ。体の良い解雇だったかもしれない。うまく仕事を紹介できなかったので、一つの選択肢として起業の話をした。

それから暫くして再び彼が相談に来た。「古物商の許可は外国人でも取れるのか?」という。取れるのは取れるが、「日本語が出来ないと、関係法令も解らず、申請書類の記載、提出も困難だろう。」と話すと、嬉しそうではあったが少し残念な顔をしながら再び彼は帰っていった。しかし、その許可範囲で出来る事や業界の現状のうち、知っている事は細かく説明しておいた。

次に彼と会ったのはそれから1年ほど経った頃の事。手にしていたのは『廃品回収いたします。』のチラシだった。行政書士に依頼し、古物商の申請を済ませ、公安委員会の許可を取り、増してやスピーカー付きの軽トラで廃品回収をするための許可も受けたとのこと。スタッフも、同じく日系ブラジル人の従兄弟など、車の免許があり、日本に住んでいて仕事の無い親族が手伝うと言う。チラシは自分達で各戸配布すると言う。チラシのデザインはあまり日本的とはいえない、自作のものだった。勿論頑張って車の運転免許も取るという。

その次に会った時、彼は事業は順調だと言う。運転免許も取ったし、市中で廃材を燃やす届け出も合法的に許可を得、何よりも山の中の広大な土地二箇所と、元工場に使われていたという倉庫一棟を拠点にしていた。それから逢う度に、回収してきた物品を仕分け保管する拠点が増えていった。

しかしその間全てが順風満帆ではなかった。一緒に営んでいた従兄弟が運転免許取り消しになり、それを知らない彼が助手席に乗車中、検問に合い、無免許幇助で彼も免許取り消しになった。それからは一時期休業状態だったが、従兄弟とは決別し別の免許所持者を相棒として一年間頑張っていた。そして1年経ち、彼は再度運転免許を取得した。なかなかすごいぞ!こいつは、と感心した。

気が付けば、この田舎の小さな市に、中国人、ブラジル人、日本人・・・と、数多くの廃品回収業者が出来ていた。時期良く、大型ごみの回収を行政が無料でしなくなった頃である。その頃彼は自身で回収するのをやめ、末端の回収人が持ち込む廃品を一車いくらで買い取るようになっていた。そしてそれを他府県含む処理業者に売却する。勿論ヤミ取引ではなく、きちんと産業廃棄物処理法に基づいた資格や許可、免許を取得し、合法的に商いをしていた。税務申告も税理士に依頼し滞った事もなく。行政からの問い合わせや報告義務についても「これ、なんて書いてあるの?」と聞きながら書類を作成し、期日に遅れることなく提出していた。その頃から行政の信頼も益々増したようだ。

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今でも彼とは、多くても年に二三度逢うだけであるが、起業のきっかけとその後の助言等があり、彼も信頼してくれ、こちらも彼の成長を楽しんでいる。三年程前には、集積場を市内中心部に近い場所一箇所に絞り、防犯ビデオを設置し、トラックごと重量を量れる検量機、フォークリフトやユンボ、さらに新しく始めたタイヤ商に必要な大型機械等も導入し、関西や三河遠州地方、首都圏の産廃業者との取引も始めていた。それに必要な操作の資格や免許も取り、パソコンを駆使して更に何が必要かを検索している。それでも尚且つ更に昨日相談に乗ったのは、解体の仕事や、池や石塔石灯篭などの重量物の撤去引き取り処分の業を始めるべく、関係法令の勉強と新規届出書類の記載、それに営業戦略の構築の為であった。

こうなってくると、現場でたたき上げた彼の方がこちらより業界に精通している。日本語の読み書きのみが彼に勝るところである。日本人として、年長として、古い友人として恥ずかしいがそれが現実である。今後は彼の仕事の一部を手伝い、益々大きくなっていくことによるおこぼれの仕事を頂戴するようになるかもしれない。

『念ずれば通じる。』とは、ベンチャー企業ではよく言われる言葉である。彼のような、普通に遊び、普通に家庭を持ち、普通の父親になっていくごく普通の茶目っ気ある人物が大成していくのは何が違うのか。日本語の読み書きも未だたどたどしい彼に出来て、我々この国で生まれ育った者が何故出来ないか。それは一言で言うと、頑張りだと思う。彼の日に焼けた顔、太い腕、物怖じしない性格、そして私に対するような恩を忘れない姿勢と神に対する信仰心。ごくありふれた事だが、一昔前の、大型冷蔵庫を埃まみれになりながら一人で担いで三階から運び出す彼の姿を目の当たりにしてきてそう思う。日本人の若者よ!仕事に不平を並べず、選り好みせず、一所懸命頑張れ!!

(挿入写真は全て現在の彼の職場の風景である。)

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